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山口地方裁判所宇部支部 昭和57年(ワ)134号 判決 1991年3月14日

原告 野島一博

原告 野島洋二

原告 野島峻

右原告ら訴訟代理人弁護士 上原洋允

同 水田利裕

同 関根幹雄

同 澤田隆

同 宮崎裕二

同 木村哲也

同 山下誠

同 田中義信

右原告ら訴訟復代理人弁護士 小杉茂雄

被告 小野田第一交通株式会社

右代表者代表取締役 黒土始

右訴訟代理人弁護士 新谷勝

主文

一、原告らの主位的請求を棄却する。

二、原告らが被告に賃貸している別紙物件目録(一)記載の土地の賃料は昭和六一年三月一〇日以降一か月金一三万四五〇〇円であることを確認する。

三、原告らのその余の予備的請求を棄却する。

四、訴訟費用はこれを四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

1.(主位的請求)

(一)  被告は、原告らに対し、別紙物件目録(二)記載の建物を収去して同目録(一)記載の土地を明渡し、かつ、金九一六万八〇〇〇円及び昭和六〇年四月二日から明渡ずみまで一か月金二一万三〇〇〇円の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行宣言

2.(予備的請求)

(一)  原告らが被告に賃貸している別紙物件目録(一)記載の土地の賃料は昭和五六年七月二九日以降一か月金二四万円であることを確認する。

(二)  被告は、原告らに対し、金一〇一二万円及びこれに対する昭和六一年三月一日から支払ずみまで年一割の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

(四)  第(二)項につき仮執行宣言

二、被告

1. 原告らの請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は原告らの負担とする。

3. 仮執行免脱宣言

第二、当事者の主張

一、主位的請求関係

1. 請求原因

(一)  原告らは、昭和四四年六月二日から各三分の一の持分で別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)を共有している。

(二)  被告は、昭和五六年四月二日以前から本件土地上に別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有して本件土地を占有している。

(三)  本件土地の相当賃料額は、昭和五六年四月二日の時点で一か月金一八万二〇〇〇円、昭和五八年四月二日の時点で一か月金二〇万円、昭和六〇年四月二日の時点で一か月金二一万三〇〇〇円である。

(四)  よって、原告らは、被告に対し、本件土地所有権に基づき、本件建物を収去して本件土地を明渡すことを求めるとともに、金九一六万八〇〇〇円(昭和五六年四月二日から昭和五八年四月一日までの一か月金一八万二〇〇〇円の割合による損害金四三六万八〇〇〇円と同月二日から昭和六〇年四月一日までの一か月金二〇万円の割合による損害金四八〇万円の合計額)及び昭和六〇年四月二日から明渡しずみまで一か月金二一万三〇〇〇円の割合による損害金の支払を求める。

2. 請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)、(二)の事実は認める。

(二)  同(三)の事実は否認する。

3. 抗弁

(一)(後記(二)ないし(六)に共通する主張)

(1) 野島土人は、昭和三九年以来小野田山電タクシー株式会社(旧商号株式会社小野田タクシー、以下「小野田山電タクシー(旧)」という。」に対し、本件土地を賃貸していた。野島土人は昭和四四年六月二日死亡し、相続人である原告らは、各三分の一の持分で本件土地を相続し、賃貸人たる地位を承継した。小野田山電タクシー(旧)は昭和五三年二月二四日宇部山電タクシー株式会社(以下「宇部山電タクシー」という。)に吸収合併され、宇部山電タクシーが本件土地の賃借権を承継取得した。

(2) 宇部山電タクシーは、労務対策等の理由で同会社を分割し、合併前の状態に戻すことを考えていたが、会社分割の規定がないので、小野田山電タクシー(旧)と同一商号の会社を設立することを計画した。

(3) 波多野芳春を発起人総代として新会社の設立を企画し、昭和五五年一〇月一一日定款を作成し、株式も波多野芳春ほか六名の発起人により引受けられ、ここに波多野芳春を代表機関とする設立中の会社が成立した。次いで、同月一七日定款の認証を受け、会社設立手続は外部的にも明らかになった。

(4) 新会社である小野田山電タクシー株式会社(以下「小野田山電タクシー(新)という。」は昭和五六年三月二六日成立した。

(5) 小野田山電タクシー(新)の商号は昭和五六年四月二日第一交通株式会社(以下「第一交通」という。)と変更され、更に同年六月一一日小野田第一交通株式会社と変更された。

(二)  波多野芳春は、昭和五五年一二月九日ころ設立中の会社の機関として、原告らとの間で(少なくとも、本件土地の管理処分権限を有していた原告野島一博との間で)、本件土地の賃貸借契約を締結した。新会社である小野田山電タクシー(新)は昭和五六年三月二六日成立し、右賃貸借契約の効果が同会社に帰属した。同会社は右賃貸借契約を黙示的にせよ、異議なく承諾した。

(三)  波多野芳春は、昭和五五年一二月九日ころ将来成立する会社の代理人として、原告らとの間で、成立後の会社が本件土地を使用することを内容とする予備的契約を締結した。小野田山電タクシー(新)が昭和五六年三月二六日成立したので、右契約は同会社につき効力を生じた。

(四)  宇部山電タクシーは、昭和五五年一二月九日ころ新会社の成立とともに本件土地の賃借権を新会社に譲渡することについて原告らの承諾を得た。しかるところ、昭和五六年三月二六日新会社である小野田山電タクシー(新)が成立したので、宇部山電タクシーは、直ちに本件土地の賃借権を小野田山電タクシー(新)に譲渡した。

(五)  波多野芳春は、昭和五五年一二月九日ころ原告らとの間で、設立される新会社を受益者とする第三者のためにする契約として本件土地の賃貸借契約を締結した。新会社である小野田山電タクシー(新)は、昭和五六年三月二六日成立し、受益の意思表示をした。

(六)  もし、宇部山電タクシーや小野田山電タクシー(新)が本件土地を利用しておれば、原告らは本件土地の明渡を請求することはできない。仮に、被告の本件土地使用が賃借権の無断譲渡によるものであるとしても、原告らが被告に対し、本件土地の明渡を求めることは、次のような事情に照らし、権利の濫用にあたるから許されない。

原告らは、被告に対し本件土地の明渡を求めた後、本件土地上にホテルを建設することを計画している。一方、被告は、他に適当な代替地を見つけることが資金的に困難であるばかりでなく、タクシー営業として行政的規制を受けるため難しいので、本件土地の使用権を失うと、タクシー営業を行うことができなくなる。

4. 抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)(1)の事実は認める。(2)の事実は不知。(4)、(5)の事実は認める。

(二)  同(二)ないし(五)の事実のうち、小野田山電タクシー(新)が昭和五六年三月二六日成立したことは認めるが、その余は否認する。

(三)  同 (六)の事実は否認する。

5. 再抗弁

(一)  後記(二)ないし(五)に共通する主張

(1) 野島土人は、昭和二六年四月三日小野田山電タクシー(旧)を設立し、以来長らく同会社の代表取締役の任にあったが、昭和三八年に同会社の株式全部をサンデン交通株式会社(以下「サンデン交通」という。)に売却して代表取締役を辞任し、サンデン交通の役員長沼音治が小野田山電タクシー(旧)の代表者になった。しかし、野島土人は、その後も死亡するまで小野田山電タクシー(旧)の取締役の地位に止まっていた。

(2) 小野田山電タクシー(旧)は、昭和四四年二月に株式会社小野田タクシーから小野田山電タクシー株式会社に商号変更をし、名実ともにサンデン交通の子会社となったものの、業績が芳しくなかったため、昭和五三年二月二四日サンデン交通系列の宇部山電タクシーに吸収合併された。

(3) 野島土人は、本件土地の賃借人(小野田山電タクシー(旧)、宇部山電タクシー)の親会社であるサンデン交通の代表取締役会長林佳介と古くから親交があった。野島土人の死亡後、野島家と林家との親交はより一層緊密になった。

(4) 本件土地の賃借人は、単にサンデン交通の百パーセント子会社であるというに止まらず、役員の面でも同会社の責任者を持ってきていた。

(5) 本件土地の賃貸借は右のようなサンデン交通つまり林家との信頼関係を前提とした賃貸借であったため、その賃料は一時は税金以下の時代さえあり、もはや使用貸借と言ってよい程であった。結局、原告らと賃借人との間の本件土地の賃貸借は極めて特殊な個人的信頼関係に基づいた恩恵的なものといってよい。

(二)  右のような事情があるので、原告らは、林佳介の関係する会社に対しては本件土地の賃借権の譲渡につき承諾を与えるが、実質、実体が同人と関係することのない者への本件土地の賃借権の譲渡については承諾を与える理由も必要もなく、これを与えた事実はないけれども、仮に、原告らが被告主張のように、本件土地賃借権の被告への譲渡を承諾したとしても、原告らは、被告が林佳介と実質上、実体上全く関係のない会社であるのに、実質上関係のある会社であると誤信して右承諾をしたものであるから、右承諾の意思表示は、その重要な部分に錯誤があり無効である。

(三)(1)  仮に、原告らが本件土地賃借権の被告への譲渡を承諾したとしても、右承諾は、礒辺克己ないし被告の親会社である第一通産株式会社が、賃借権の譲渡を受ける会社が林佳介と実質上関係のない会社であるにもかかわらず、関係のある会社であるかのように原告らを欺いて得られたものであるところ、被告は、礒辺克己の右詐欺の事実を知っていた。

(2) 原告らは、被告に対し、本訴状をもって右承諾の意思表示を取消す旨の意思表示をした。右意思表示は、本訴状が昭和五七年八月二四日被告に送達されたことにより、また遅くとも本訴状が陳述された口頭弁論期日である同年一〇月六日に被告に到達した。

(四)  仮に、原告らが本件土地の賃借権の被告への譲渡を承諾したとしても、右承諾は、本件土地の借主が林佳介と関係のない会社となることを解除条件とする承諾であるところ、遅くとも、昭和五六年四月二日ころまでに右条件が成就し、右承諾の効力がなくなった。

(五)(1)  被告は、原告らとの間には何らかの人間関係がないにもかかわらず、その前提をあえて無視し、法を悪用して不意打ちに原告らとの賃貸借関係に侵入してきたものであって、被告は、賃貸借契約関係に横たわる信義則上要求される義務に違反してその信頼関係を破壊し、本件土地賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめている。

(2) そこで、原告らは、被告に対し、昭和五六年五月二九日ころ到達の書面で、右信頼関係破壊による信義則上の義務違反を理由として、本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

6. 再抗弁に対する認否

(一)  再抗弁(一)(1)の事実のうち、野島土人は、小野田山電タクシー(旧)の代表取締役であったが、同会社の株式をサンデン交通に譲渡して代表取締役を辞任したこと、同人は、その後も小野田山電タクシー(旧)の取締役であったことは認める。(2)の事実のうち、小野田山電タクシー(旧)が昭和五三年二月二四日宇部山電タクシーに吸収合併されたことは認め、その余は不知。(3)、(5)の事実は否認する。

(二)  同(二)ないし(五)の事実は否認する。

二、予備的請求関係

1. 請求原因

(一)  野島土人は、昭和三九年以来小野田山電タクシー(旧)に対し本件土地を賃貸していたが、同会社はもともと野島土人が昭和二六年に設立し、同人が昭和三八年までその代表取締役を勤め、昭和三九年の時点でも取締役の任にあったため、本件土地の使用料は飲み代程度のものであり、昭和四三年以降一か月金六〇〇〇円になった。野島土人が昭和四四年六月二日死亡し、原告らが本件土地を相続した後も、原告らと同会社の親会社であるサンデン交通の林佳介とが親交関係にあって、共同事業を営んでいたため、右賃料は長らく据え置かれていた。右賃料は昭和五〇年にようやく一か月金一万円に増額されたが、本件土地の固定資産税及び都市計画税の合計額をはるかに下回っていた。昭和五二年度分の税金が年額金二〇万円を越えたため、原告らと礒辺克己とが話し合いをした結果、右賃料を、昭和五三年一月以降一か月金五万六〇〇〇円、昭和五四年一月以降一か月七万六〇〇〇円、昭和五五年一月以降一か月金一〇万円に増額する旨合意した。しかし、小野田山電タクシー(旧)は、昭和五三年二月二四日宇部山電タクシーに吸収合併されたものの、採算が一向に改善されないことを理由に賃料の値上げに応ぜず、原告らもそれまでの経緯から強いことも言えないまま時が徒過していった。

(二)  昭和五六年三月二六日小野田山電タクシー(新)の設立登記がなされたが、同年四月二日同会社の商号が第一交通と変更され、同時に代表取締役以下の役員もサンデン交通関係者から第一通産株式会社関係者へ総入れ換えとなった。したがって、原告らは、これまでの恩恵的な地代設定を被告に対しても付与するいわれは何らない。

(三)  そこで、原告らは、昭和五六年七月二九日被告に対し、本件土地の賃料を一か月金二四万円に増額する旨の意思表示をした。

(四)  よって、原告らは、被告に対し、原告らが被告に賃貸している本件土地の賃料は昭和五六年七月二九日以降一か月金二四万円であることの確認を求めるとともに、金一〇一二万円(右増額賃料と供託賃料との差額一か月金一八万四〇〇〇円の割合による昭和五六年八月分から昭和六一年二月分までの合計額)及びこれに対する昭和六一年三月一日から支払ずみまで借地法所定の年一割の割合による利息の支払を求める。

2. 請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)の事実のうち、野島土人が昭和三九年以来小野田山電タクシー(旧)に対し本件土地を賃貸していたこと、同人が同会社の代表取締役で、辞任後も取締役であったこと、同人が昭和四四年六月二日死亡し、原告らが本件土地を相続したこと、小野田山電タクシー(旧)が昭和五三年二月二四日宇部山電タクシーに吸収合併されたことは認める。本件土地の使用料が飲み代程度のものであったこと、本件土地の賃料が昭和五〇年に一か月金一万円に増額されたが、本件土地の固定資産税及び都市計画税の合計額をはるかに下回っていたことは不知。原告らと林佳介とが親交関係にあったこと、原告らと礒辺克己とが話し合いをした結果、原告ら主張のような合意をしたことは否認する。

(二)  同(二)の事実のうち、昭和五六年三月二六日小野田山電タクシー(新)の設立登記がなされたが、同年四月二日同会社の商号が第一交通と変更され、代表取締役以下の役員が変わったことは認めるが、その余は否認する。

(三)  同(三)の事実は否認する。

3. 抗弁

仮に、原告らがその主張のように本件土地の賃料増額の意思表示をしたとしても、原告らは、昭和五六年八月二六日または同年九月三日に右意思表示を撤回した。

4. 抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三、証拠<省略>

理由

一、主位的請求について

1. 請求原因(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。

2. 抗弁について判断する。

(一)  抗弁(一)(1)、(4)、(5)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  抗弁(二)について

被告は、波多野芳春が昭和五五年一二月九日ころ設立中の会社の機関として、原告らとの間で(少なくとも、本件土地の管理処分権限を有していた原告野島一博との間で)、本件土地の賃貸借契約を締結した旨主張するが、これにそう証人波多野芳春の証言は措信し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、右抗弁はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

(三)  抗弁(三)について

抗弁(三)の事実のうち、小野田山電タクシー(新)が昭和五六年三月二六日成立したことは当事者間に争いがないが、その余はこれを認めるに足りる証拠がない。したがって、右抗弁は理由がない。

(四)  抗弁(四)について

<証拠>を総合すれば、一般乗用旅客自動車運送事業を営む宇部山電タクシーは、労務対策等として、同会社の事業部門のうち、本件土地建物を本拠とする部門を分離して新会社を設立することにしたこと、そこで、新会社設立のため、宇部山電タクシーの代表取締役であった波多野芳春、同会社の取締役であった礒辺克己ほか五名が発起人となり、昭和五五年一〇月一一日定款を作成するとともに、各自株式の引受をしたこと、同年一二月上旬ころ宇部山電タクシーは、原告らに対し、本件土地の賃借権を同会社から新会社に譲渡することについての承諾を求めたところ、原告らはこれを承諾したこと、昭和五六年三月五日ころ宇部山電タクシーから新会社への右事業の譲渡についての認可もなされ、同月二六日新会社である小野田山電タクシー(新)が成立したこと(同日同会社が成立したことは当事者間に争いがない)、宇部山電タクシーは、同年四月一日ころ本件建物を小野田山電タクシー(新)に譲渡するとともに、本件土地の賃借権を同会社に譲渡したことが認められ、原告野島一博本人尋問の結果(第一、二回)中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、原告らの承諾のもとに本件土地の賃借権が宇部山電タクシーから小野田山電タクシー(新)に譲渡されたことが明らかである。

3. 再抗弁について判断する。

(一)  野島土人が小野田山電タクシー(旧)の代表取締役であったが、同会社の株式をサンデン交通に譲渡して代表取締役を辞任したこと、同人がその後も小野田山電タクシー(旧)の取締役であったこと、同会社が昭和五三年二月二四日宇部山電タクシーに吸収合併されたことは当事者間に争いがない。

(二)  再抗弁(二)について

原告らは、仮に、原告らが本件土地賃借権の被告への譲渡を承諾したとしても、原告らは被告が林佳介と実質上、実体上全く関係のない会社であるのに、実質上関係のある会社であると誤信して右承諾をしたものであるから、右承諾の意思表示は、その重要な部分に錯誤があり無効である旨主張する。しかしながら、仮に、原告らがその主張のように誤信したとしても、それは原告らが右承諾の意思表示をなすについての動機に錯誤があったものに過ぎず、しかも、原告らがその動機を右承諾に際し、相手方である宇部山電タクシーに対して表示した事実を認めるに足りる証拠はないから、法律行為の要素に錯誤があったものとはいえない。したがって、右再抗弁は理由がない。

(三)  再抗弁(三)について

再抗弁(三)(1)の事実はこれを認めるに足りる証拠がない。したがって、右再抗弁はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

(四)  再抗弁(四)について

再抗弁(四)の事実はこれを認めるに足りる証拠がないから、右再抗弁は理由がない。

(五)  再抗弁(五)について

<証拠>を総合すれば、小野田山電タクシー(旧)は、昭和二六年四月三日成立した会社で、小野田市一円の一般貸切旅客運送業を目的とするものであること、野島土人は、同会社の設立時から昭和三八年八月一四日まで同会社の代表取締役であり、退任後も昭和四四年五月ころまでは同会社の取締役であったこと、同人と、サンデン交通及び宇部山電タクシーの代表取締役であった林佳介とは古くから親交があり、原告野島一博も林佳介と親しかったことが認められる。ところが、<証拠>を総合すれば、サンデン交通は、昭和五六年四月二日ころ同会社が所有していた小野田山電タクシー(新)の株式の全部を第一通産株式会社に譲渡し、宇部山電タクシーは、そのころ同会社の営業のうち、本件土地建物を本拠とする営業を小野田山電タクシー(新)に譲渡したこと、小野田山電タクシー(新)の設立当初の代表取締役は波多野芳春、取締役は礒辺克己、平田敏夫、監査役は木村悟であったところ、同月二日右役員が全員辞任し、同日代表取締役に黒土始、取締役に黒土早苗、古川兵介、白川音芳、監査役に速水収がそれぞれ就任したこと、原告らと新しく就任した右各役員との間には人的関係が全くないこと、小野田山電タクシー(新)の商号は同日第一交通と変更され、更に同年六月一一日小野田第一交通株式会社と変更されたこと(右のとおり商号が変更されたことは当事者間に争いがない。)が認められる。しかしながら、本件全証拠によっても、本件土地のもとの賃借人であった小野田山電タクシー(旧)、宇部山電タクシーや設立当初の小野田山電タクシー(新)が野島土人または林佳介の意のままに運営されていたいわゆる個人会社であったとは認め難く、また、原告野島洋二(第一回)、同野島一博(第一回)各本人尋問の結果によれば、本件土地の賃借人が被告になってからも本件土地の使用状況は従前と変わりがなく、また被告が本件土地を使用するようになったことによって原告らが損害を受けた事実もないことが認められるから、右に認定したような事情があるにしても、被告が原告らに対し、信義則上の義務に反する行為をしたとは認められない。したがって、右再抗弁はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

4. 以上のとおり、原告らの主位的請求は理由がない。

二、予備的請求について

1. 原告らと被告との間に本件土地の賃貸借関係が生ずるに至った経過等については、前記一2(一)、(四)のとおりである。

2. 原告らは、昭和五六年七月二九日被告に対し、本件土地の賃料を一か月金二四万円に増額する旨の意思表示をした旨主張するところ、<証拠>を総合すれば、原告らは、昭和五六年五月二九日到達の書面で宇部山電タクシーに対し、本件土地賃借権の無断譲渡による本件土地賃貸借契約解除の意思表示をし、更に同年六月二日ころ到達の書面で被告に対し、本件土地の不法占拠を理由として本件土地の明渡を求める一方、被告の専務取締役であった古川兵介及び支配人であった受川茂との間で、数回にわたり本件土地に関して話し合いをしたこと、原告らは、右話し合いの当初は本件土地の明渡を求めていたが、その後、同年七月下旬ころになって、一か月金二四万円の賃料でなら本件土地を被告に賃貸してもよい旨の申出をしたものの、古川兵介らが賃料は一か月金一〇万円が相当である旨主張し、結局話し合いはまとまらなかったこと、そのため、原告らは、同年九月上旬ころ古川兵介らに対し、本件土地を被告に賃貸する話は白紙に返す旨述べたことが認められ、原告野島洋二本人尋問の結果(第一回)中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定の事実によっては、原告らが被告に対し、本件土地の賃料を一か月金二四万円に増額する旨の意思表示をしたものとは認め難く、他に原告らが昭和五六年七月二九日被告に対し、本件土地の賃料を一か月金二四万円に増額する旨の意思表示をしたものと認めるに足りる証拠はない。しかしながら、本件記録によれば、原告らは、その昭和六一年三月一〇日付準備書面をもって、原告らが被告に賃貸している本件土地の賃料が昭和五六年七月二九日以降一か月金二四万円であることの確認を求めていることが明らかであるから、原告らは、右準備書面が陳述された昭和六一年三月一〇日の本件口頭弁論期日において、被告に対し、本件土地の賃料を一か月金二四万円に増額する旨の意思表示をしたものと認めるのが相当である。

3. <証拠>を総合すれば、本件土地の賃料は、昭和四三年の時点では一か月金六〇〇〇円であったが、昭和五三年一月ころ一か月金五万六〇〇〇円に増額されたこと、昭和五四年度分以降公租公課も増額されたことが認められる<証拠判断省略>。そして、右賃料の増額請求までに地価が高騰したことは公知の事実である。

4. そこで、右賃料増額請求がなされた時点における本件土地の適正賃料額について検討する。

(一)  <証拠>によれば、本件土地に対する公租公課は、昭和五三年度分が固定資産税が金二一万九三一八円、都市計画税が金四万六九九六円、昭和五四年度分が固定資産税が金二四万一二五〇円、都市計画税が金五万一六九六円、昭和五五、五六年度分が固定資産税がいずれも金二五万二二一六円、都市計画税がいずれも金五万四〇四六円、昭和五七、五八年度分が固定資産税がいずれも金二七万六四九六円、都市計画税がいずれも金五万九二四九円であったことが認められる。

(二)  鑑定人山口博美の鑑定の結果によれば、右鑑定は差額配分法により本件土地の昭和六〇年四月一日の時点の適正賃料を選定しているが、これによると、右賃料は一か月金一三万四五〇〇円となっている。そして、右鑑定が右賃料算定の基礎としている各数値はいずれも相当なものと認められる。

(三)  右(一)、(二)の事実及び前記3の諸事情を考慮すれば、本件土地の適正賃料額は昭和六一年三月一〇日の時点で一か月金一三万四五〇〇円と認めるのが相当である(右鑑定の時点とは約一か年のずれがあるが、特に修正を加える必要があるとは認められない。)。

5. 以上のとおり、原告らの予備的請求は、被告に対し、本件土地の賃料が昭和六一年三月一〇日以降一か月金一三万四五〇〇円であることの確認を求める限度で理由があるが、その余は失当である。

三、以上の次第で、原告らの主位的請求を棄却し、予備的請求は、被告に対し、本件土地の賃料が昭和六一年三月一〇日以降一か月金一三万四五〇〇円であることの確認を求める限度で認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三谷忠利)

<以下省略>

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